16 名義書換失念と新株引受権の帰属
会社法判例百選 16事件(清水忠之)
最判1960.09.15(S35.09.15)
民集14.11.2146
1
・本件は株式の譲受人が名義書換を失念したため、会社に対して自己が株主であることを主張できず(会社130条1項)、名簿上の株主に割り当てられた新株の帰属が問題となっている。
・本件は資本増加に株主総会決議が必要であった1950年(昭25年)改正前の事案。→現在でも募集株式や新株予約権につき株主割当を行う場合(会社202条、241条)に同様の問題が生ずる(会社199条2項、201条1項、238条2項、240条1項)。
・対会社関係と、譲渡当事者間との問題を区別する必要性。
2
・会社126条1項、130条1項→名義書換未了の株主は会社に対して株主権の行使を主張できず、会社も名簿上の株主に権利行使させれば免責。
→会社が新株割当日当時の株主として譲渡人を扱ったのは正当。
←→判旨は、譲渡当事者間の法律関係にも言及、新株引受権は名実とも名簿上の株主に帰属し、譲受人は譲渡人に対して何らの請求もできないとした。
理由
1)新株引受権が譲受人に帰属すると解すると、市場の騰落によって当事者が自己に有利な主張をなし、信義則に反し取引安全を害する。
2)具体的な新株引受権をどのような方法で株主に与えるかは総会が任意で決定でき、新株引受権が付与される前に株式譲渡がなされ譲受人に株主権が移転されたからといって、新株引受権まで随伴して移転するとはいえない。
批判
1)につき、新株の市場価格が短期間にプレミアムを消して払込金額を割るというのは増資の実情からは遠い想定。
2)につき、会社との関係と当事者との関係を混同。
・多数説→判決の結論に反対。譲受人たる実質上の株主に具体的新株引受権が帰属することを肯定。
根拠
・新株引受権制度には、既存株主の割合的地位を経済的にかつ支配権上保護するという要請がある。
・通常、割当日前の株式は増資含みの高値で売買されるのに、譲受人が名義残存を奇貨として二重にプレミアムを得るのは不公平。
・譲渡人に新株引受権が帰属するとは是認しがたい有償・無償の抱き合わせ増資や無償新株発行と本質的に差異がない。
3
・多数説によれば、譲渡人が新株を取得した場合返還請求が可能とするが、その返還対象と根拠について。
新株自体を返還-不当利得説、あるいは準事務管理説
利益の返還-不当利得説
不当利得説
←→
・譲受人の名簿書換失念に原因があり、損害があるといえるのか。
・譲渡人の受益と譲受人の損失との間に因果関係があるのか。
・譲受人を悪意の受益者として利息を付して返還させるのは酷ではないか。
準事務管理説
←→現行法上、準事務管理という制度はないのではないか。
4
・日本証券業協会の統一慣習規則第2号→譲受人は譲渡人に対して6ヶ月以内に限り新株等の返還請求可。返還に当たっては経費その他を支払う。
→この規則を協会員(証券会社)を通じて行う一般人の取引にも直接適用するという説もあるが、否定すべき。
→しかし、実質的には効果を異にする理由なし。新株自体の返還を不当利得説にたちつつ認め、因果関係ありとすべき。