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2009年4月28日

除斥期間か消滅時効か

「時効殺人」賠償が確定=除斥期間適用せず-26年後自首の加害男に・最高裁
<時効殺人>元警備員への賠償支払い命令確定 最高裁判決
(いずれもヤフーニュースより)


除斥期間と消滅時効は、時の経過によって権利が消滅する制度であるという点で共通しますが、除斥期間は消滅時効と違い、(1)中断が認められない、(2)当事者の援用を要せず当然に権利が消滅する、という点で異なるものです(学部の時、民法のK教授の試験でこの問題が出たなぁ)。

本件は、殺人事件の加害者が、被害者の死体を26年間自宅の床下に埋めて隠しており、被害者の相続人は死体発見まで被害者の死亡を知り得なかったという場合に、民法724条後段の「20年」という期間が適用されるかが問題となったものです。


民法724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。


民法724条後段の「20年」は除斥期間であるというのが最高裁判例ですので[最判1989(H01).12.21]、不法行為による損害賠償請求権は、不法行為の時から20年経過すれば法律上当然に消滅することになります。そして、法律上当然に消滅するのですから、除斥期間の主張は信義則(民法1条2項)にも反しないというのが、上記1989年最判の判断です。

今回の事件では、被害者が死亡していることは加害者が死体を隠し続けていたために分からなかったのであり、加害者は殊更に被害者の死亡を知り得ない状況を作出していたのであるから、相続財産に関する時効の停止を定めた民法160条の法意に照らして、除斥期間の効果が生じないとしたものです。

この判断は、生後6ヶ月と1日を過ぎたときに受けた予防接種により重度の心身障害者となった被害者が、成人してから国賠を請求した事件で、成年被後見人に関して時効停止を定めた民法158条(現・同条1項)の法意に照らして民法724条後段の適用を否定した最判1998(H10).06.12に続いて、除斥期間の適用を否定した2例目になります。


民法158条(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)
1 時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。

民法160条(相続財産に関する時効の停止)
 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。


率直、民法158条やら160条やらを使って法律上当然に消滅するはずの請求権が消滅しない、とするのはかなりアクロバティックな方法なので、今回の判決で田原睦夫裁判官が意見で書いているように、民法724条後段の性質は時効であると解する方が適切なのではないかと思われます。


メキシコ発の豚インフルエンザでWHOがフェーズ4と発表。この先混乱が拡大しないか、心配です。

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