当ウェブログを愛読してくださっている3104492氏の疑問について(「偉い人」ではないけど)。
いわゆるカフェー丸玉事件判決(大判1935年4月25日新聞3835号5頁)は、自然債務という概念を認めたものとして有名ですが、3104492氏の疑問は、自然債務を承認したとされる部分は、判決理由ではなく、傍論に当たるのではないか、というものです(で、傍論には判例としての先例拘束性がないのでは、という理解でいいのよね)。
世の中便利になりまして、多くの法科大学院で採用されているTKCロー・ライブラリーを使うと、戦前も含めて、重要な判決はネットで検索可能です。カフェー丸玉判決も検索できました。
実は、この判決の本文に当たったのははじめて。短いから以下に全文掲げます(数字と仮名遣い、句読点は当方で修正、補充。傍線引用者)。
※一応、事案の概要(らしきもの)
道頓堀の「カフェー」の男性客が、店の女の子の気を引こうと、独立資金出すよ、と約束した。男性客は酒席での話のつもりだったんだけど、女の子の方はその話を当て込んで、お店辞めちゃって、男に「約束通り払ってよ」と言ってきて、裁判になっちゃった。原審は女の子の勝ちで、男性客が上告。
「上告人は大阪市南区道頓堀「カフヱー」丸玉に於て女給を勤め居りし被上告人と遊興の上、昭和8年1月頃より眤懇と為り、其の歓心を買はんが為め、将来同人をして独立して自活の途を立てしむべき資金として、同年4月18日被上告人に対し金400円を与ふべき旨諾約したりと云ふに在るも、叙上判示の如くんば上告人が被上告人と眤懇と為りしと云ふは、被上告人が女給を勤め居りし「カフヱー」に於て比較的短期間同人と遊興したる関係に過ぎずして、他に深き縁故あるに非ず。然らば斯る環境裡に於て、縦しや一時の興に乗じ被上告人の歓心を買はんが為め、判示の如き相当多額なる金員の供与を諾約することあるも、之を以て被上告人に裁判上の請求権を付与する趣旨に出でたるものと速断するは相当ならず。寧ろ斯る事情の下に於ける諾約は諾約者が自ら進んで之を履行するときは、債務の弁済たることを失はざるも、要約者に於て之が履行を強要することを得ざる特殊の債務関係を生ずるものと解するを以て原審認定の事実に即するものと云ふべく、原審の如く民法上の贈与カ成立するものと判断せむが為には、贈与意思の基本事情に付、更に首肯するに足るべき格段の事由を審査判示することを要するものとす。然らば原審が何等格段の事由を判示せずして輙く右契約に基く被上告人の本訴請求を容認したるは、未だ以て審理を尽さざるものか、少くも理由を完備したるものと云ふを得ざるにより、論旨は結局其は理由あるに帰す。」
・・・・どうかな、これって判決理由になっていないかしら。
この諾約は、「特殊の債務関係」を生じると解すべきで(ここが自然債務の部分)、原審のように贈与契約が成立しているというならば、格段の理由を示すべきであり、原審は審理不尽、故に破棄差戻、という作りですよね。
・・・・少なくとも、傍論ではないと思われます(間違ってたらゴメン。もっと偉い人にも聞いて)。
・・・・ところて゛、何で3104492氏はこのことを疑問に思ったのかしら。
(追記)3104492氏の情報によると、「カフェー丸玉」は、今でもパチンコ店「マルタマ」として残っているそうです。
「大東文化大学法学部 野口昌宏研究室」を参照のこと(写真もあります)。