« 学資保険 | メイン | MovableType 4.25 »

2009年5月28日

タケノコ泥棒と事後強盗

タケノコ1本 強盗致傷 容疑の女逮捕」(産経関西のサイトより)

タケノコ泥棒が竹林の管理人に見とがめられ、逃げる際に鎌で切りつけてしまったという事件。

見出しは強盗致傷となっていますので、刑法238条の事後強盗として逮捕されたようです。


刑法235条(窃盗)
 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑法238条(事後強盗)
 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

ここで、問題となるのが、タケノコ泥棒は刑法の窃盗罪にはならないという点です。では何になるのか。以前このウェブログでも紹介した森林法上の森林窃盗です。


森林法2条1項(定義)
 この法律において「森林」とは、左に掲げるものをいう。但し、主として農地又は住宅地若しくはこれに準ずる土地として使用される土地及びこれらの上にある立木竹を除く。
一  木竹が集団して生育している土地及びその土地の上にある立木竹
二  前号の土地の外、木竹の集団的な生育に供される土地

森林法197条
 森林においてその産物(人工を加えたものを含む。)を窃取した者は、森林窃盗とし、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。


刑法238条の事後強盗における「窃盗」に、森林窃盗は含まれるでしょうか。この点について判示した判例は少なくともTKCのLEX/DBで検索できるものの中にはありません。

この問題の解釈においては、刑法244条のいわゆる親族相盗例が森林窃盗にも適用されるとした判例[最判1958(S33).02.04]と、刑法242条の適用を森林窃盗につき否定した判例[最決1977(S52).03.25]が参考になりそうです。


刑法244条(親族間の犯罪に関する特例)
1 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

刑法242条(他人の占有等に係る自己の財物)
第二百四十二条  自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。


前者の判例は、刑法244条の「第二百三十五条の罪、・・・・又はこ・・・・の罪の未遂罪」とは窃盗又はその未遂罪を指し、森林窃盗が含まれると解し、後者の判例は、刑法242条の「この章の罪」とは刑法36章の罪を指し、森林窃盗には適用されないと解しています。そして後者は、罪刑法定主義の一内容としての(被告人に不利な)類推解釈の禁止が関わってきます。

事後強盗も被告人にとっては不利益ですから、罪刑法定主義の一内容としての類推解釈の禁止が問題となろうかと思います。
刑法238条は端的に「窃盗が」と規定していますから、森林窃盗を当然に含み、そもそも類推適用の問題にはならないとも考えられますし、「窃盗」とは刑法235条の「窃盗の罪」を犯した者と考えれば、その「窃盗」に森林窃盗を含むのは、被告人に不利な類推解釈ともいえましょう。

以前に紹介したように、森林法の森林窃盗は旧刑法の名残で、森林の産物だけを特別に取り扱う必然性には乏しいのですが、罪刑法定主義は刑法の一大ルールですから、とにかく法がそうなっている以上、特別に取り扱うしかないとも考えられ、悩ましいところです。

ということで、今回のタケノコ泥棒事件は、今後裁判になったとしたら、意外と重要判例になる可能性もあります。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.rigorist.net/weblog/mt-tb.cgi/1559

コメント

泥棒は「女」で、被害者は「女性」なんですね。

>くるさん

確かに、「○○日午前11時半ごろ、●●市◎◎町の山林で、女がタケノコを掘って皮をはいでいるのを、山林を管理人している女性(64)が発見・・・・」とありますから、泥棒と被害者をわけてますな。

昔ならどちらも「女」だったんじゃないでしょうかね。でも、泥棒を「女性」と書くことは今後もなさそうだ。

このサイトのフィードを取得



Powered by Movable Type 4.25
Movable Type 4.25

Valid XHTML 1.0 Transitional