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2009年6月23日

「放送受信契約の締結」を求める訴訟?

NHKが受信料拒否ホテルを提訴、142万円支払い求める」(ヤフーニュースへのリンク)
放送受信契約の締結拒否者に対する民事訴訟の提起について」(NHKのサイトへのリンク)

NHKとの間に放送法32条1項に基づく受信契約を結んでいながら受信料を支払わない者に対して支払を請求する事例はありましたが、放送受信契約の締結を求める民事訴訟を提起するのは初めてのことだそうです。

しかし、この訴訟はどうも変な感じがします。まず、放送法32条の条文を確認しておきます。


放送法32条(受信契約及び受信料)
1 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。 (以下略)

まず私が疑問に思うのは、「放送受信契約の締結」を求める訴訟の訴訟物は何か、ということです。

放送法32条は契約という形を取っていますが、一般に契約の成立には申し込みと承諾の合致が必要であるということになりそうです。そして、「放送受信契約の締結」を裁判で求めるということを素直に構成すると、契約の申し込みという意思表示を求める給付訴訟ということになり、訴訟物はテレビジョン受信装置を設置した者に対する「放送法に基づく契約請求権」ということになりそうです。しかし、契約の締結はそもそも当事者の自由であるという契約自由の原則が近代私法の原則ですので、「契約請求権」というのはどうも馴染まないように思います。
この点、テレビジョン受信装置を設置したことにより、設置者からNHKに対して黙示の受信契約申し込みがあると理解した上で、放送受信契約が成立していることの確認訴訟みたいなつくりにした方がまだ筋がいいように思いますが、NHKはあくまでも契約締結を求める訴訟を提起したといっていますので、この考えは採っていないようです。
結局、NHKが何を訴訟物としているのかが、イマイチよくわからない。


次に、上記の訴訟物の点がクリアできたとして、問題になるのが今年3~5月分の受信料についての支払いを求めている部分です。

意思表示を求める訴訟の判決は、その確定の時に意思表示があったものとみなされます(民事執行法174条1項本文)。


民事執行法174条(意思表示の擬制)
1 意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し、又は和解、認諾、調停若しくは労働審判に係る債務名義が成立したときは、債務者は、その確定又は成立の時に意思表示をしたものとみなす。(以下略)


よって、放送受信契約の締結を求める訴訟によって契約が締結になるのは裁判の確定の時であって、少なくとも現時点では契約は締結されていないことになります。

にもかかわらず、NHKが過去の分につき受信料の支払いを求めるのは矛盾しており、少なくとも受信契約の締結を求める訴訟と受信料支払い請求訴訟は両立しないのは明らかであると思います。


訴状を見ていないので正確なところはわからないのですが、このニュースを見て上記のようなことを疑問に思った次第。

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